高齢者福祉、子育て支援、障がい福祉の3つを軸に、幅広い福祉サービスを展開する社会福祉法人豊中福祉会。
認定こども園や学童、高齢者施設といった福祉サービスだけでなく、カフェやフィットネス、子ども食堂など、地域の人が日常的に足を運べる場所づくりにも力を入れています。
その考え方をひとつの形にしたのが、新たな拠点「iro×iro(いろいろ)ベース」。
なぜ、これほどまでに“福祉施設らしくない福祉施設”をつくったのか。
豊中福祉会が大切にしてきたこと、いろいろベース誕生までの道のり、そしてこれから目指す福祉の姿について、専務理事/COO(最高執行責任者)の八木勲様にお話を伺いました。

大きく分けると、「高齢者福祉」「子育て支援」「障がい福祉」の3つを軸に事業を展開しています。高齢者福祉では、いわゆる介護サービスをはじめ、年齢を重ねる中で生まれる生活上のさまざまな課題を支援しています。子育て支援では、認定こども園や保育園、さらに小学校へ進学した後の学童保育も行っています。例えば、上のお子さんが小学生で、下のお子さんが保育園に通っているご家庭だと、それぞれ別の場所へお迎えに行かなければならないことがありますよね。ここでは、保育園を卒園した後も慣れ親しんだ場所で学童を利用できます。保護者の方の生活動線や負担を少しでも減らすことにもつながっていると思います。
現在の園は定員150名で、生後3か月頃から就学前までのお子さんをお預かりしています。もともと豊中福祉会は保育園からスタートした法人です。園舎の老朽化に伴う移転・建て替えを機に定員を増やし、新しい施設としてスタートしました。
法人全体では子ども食堂を開催したり、地域の方にも利用していただけるフィットネスやカフェを運営したりしています。
福祉事業だけに限定するのではなく、「地域の方との接点をどうつくるか」はかなり意識しています。
福祉サービスを利用するためではなくても、普段の生活の中で何かしらの理由で施設に足を運んでもらえる。
そんな場所にしたいと思っています。
僕たちは子どもを対象にした事業から高齢者福祉まで行っていますから、世代を限定せず、地域のいろいろな方とつながっていきたいですね。
今は、人と会ったり、打ち合わせやミーティングをしたりする時間が多いですね。
現場で直接何かをすることはほとんどなくなって、仕事の9割以上がマネジメントです。
今年度、特に力を入れているのが「幹部人材の育成」と「中期経営計画」です。
中期経営計画は、これからの3年間で法人としてどこへ向かうのかを決めるものです。
どんな事業をしていくのか。どんな人材を育てるのか。経営面をどこまで伸ばしていくのか。
組織が大きくなるほど、それぞれが違う方向へ進むわけにはいきません。
だからこそ、会社としての方針や、各部署が3年間でどこまで成長していくのかを事前にしっかり共有しておくことが大切だと思っています。
次の3年間については、新しい事業所をどんどんつくるというより、今ある事業をさらに育てていきたいと思っています。
それぞれの事業に、「ここだけは地域のどこにも負けない」と言える圧倒的な強みをひとつずつつくっていきたい。
例えばデイサービスなら、その地域で「この分野なら豊中福祉会だよね」と言ってもらえる状態です。
認知症ケアも一例です。
認知症の方へのケアは、接し方ひとつで状態が変化することもあり、専門的な知識や技術が必要になります。
専門資格を持った職員を増やしたり、より高いレベルの知識を持つスペシャリストを育成したりすることも、ひとつの強みになると思います。
何を強みにするかは、それぞれの事業所で違っていい。
ただ、自分たちで「強いです」と言っているだけでは自称ですから。
周りから見ても「確かにそこは強いよね」と認めてもらえるレベルまで持っていきたいですね。

最初からここへ入るつもりは全然なかったんです。
僕は次男で兄もいますし、バイクが好きだったこともあって、大学卒業後はヤマハ発動機に就職しました。
祖父が約45年前に保育園を始めたのが法人の原点なので、僕自身は創業家の人間ではあります。
ただ、当時は「将来ここで働く」という考えはありませんでした。
一方で、大学では経済や経営について学んでいたので、いつか経営という視点で仕事ができるようになりたいという思いはありました。
そんな中、25歳の頃に法人が新しく介護事業を立ち上げることになりました。
当時はまだ小さな法人でしたから、新しいことを始めるには身内の力も必要だったんですよね。
そこで僕に声がかかりました。
辞めるときにはなかったですね。
ただ、こっちへ戻ってきてからは、最初はギャップに戸惑うこともありました。
それまでいたのは、企業間で何千万円、何億円という規模の商談をしたり、全国へ出張したりする、いわゆるビジネスの最前線のような環境でした。
そこから福祉の現場へ来ると、当然、文化も仕事の進め方も全く違います。
最初は「なんでそういう考え方になるんだろう」と思ってしまうこともありました。
でも、今振り返ると、それは業界の問題というより僕自身の問題だったと思います。
その場所には、その場所で積み重ねてきた価値観や日常があります。
何かを変えていきたいのであれば、まず自分が相手と同じ目線に立たなければいけない。
目線を合わせて、一緒にやりながら少しずつ視座を上げていく。
当時の僕には、その考え方がまだ足りなかったんだと思います。
ひとつは、サービスの質に妥協しないことですね。
もうひとつは、地域の方から福祉の世界が少しでも見えるような接点をつくること。
これは経営陣だけではなく、現場のスタッフも意識してくれている部分だと思います。
福祉施設って、世の中的にはまだ少し閉ざされた世界に見えると思うんです。
介護施設も、自分自身や家族に介護が必要になったり、仕事などで関わったりしない限り、中へ入る機会はほとんどありません。
僕は、それがあまりしっくりきていなくて。
もっと日常の中に福祉があってもいいと思うんです。

例えば、あるデイサービスでは毎週ラジオ体操をしています。
時間になると地域のおじいちゃん、おばあちゃんが駐車場に集まってきて、みんなで5分、10分ほど体操する。
終わったら帰る人もいれば、そのまま「お茶でも行こうか」と出かける人もいる。
本当に、それだけなんです。
でも、その「それだけ」が大事だと思っています。
介護サービスを利用していなくても普段から施設へ来る理由があれば、「介護士さんってこんな感じで働いているんだな」と知ってもらえる。
そして、いつか家族に介護が必要になったとき、「どこへ相談したらいいんだろう」とゼロから探すのではなく、「あそこの人に一度聞いてみようか」と思ってもらえる。
介護が必要になってから初めて出会うのではなく、その前から地域の中で顔の見える関係をつくっておく。
それが僕たちのあるべき姿のひとつだと思っています。
これまでさまざまな施設や取り組みに触れる中で、地域と福祉のあり方について学ぶ機会がありました。
その中で感じたのは、福祉はサービスを必要とする方だけのものではなく、もっと日常の中にあっていいということです。
地域の方が普段から自然に立ち寄れて、子どもから高齢者まで、いろいろな人がつながれる。そんな場所をつくりたいという思いは、少しずつ自分たちの中で大きくなっていきました。
そうした考えを豊中福祉会として形にした一つが、今回の「いろいろベース」です。

もともと、既存の認定こども園が老朽化していたこともあり、将来的に移転・建て替えをする構想自体は以前からありました。
ただ、せっかく新しくつくるのであれば、単にこども園を新しくするだけではなく、いろいろな人が自然に立ち寄れる、地域のコミュニティ拠点にしたいと思ったんです。
認定こども園だけではなく、子どもから高齢者まで、地域のさまざまな人が関われる複合施設にしようと提案したのがきっかけです。
最初はイメージを周囲に伝えるのに苦労しました。構想を描き始めてから形になるまで約9年、いろいろな人と話しながら少しずつ形にしてきたものが、今の「いろいろベース」です。
施設をつくる計画が確定するまでですね。
建てるためには、まず土地が必要です。
そして建設資金がどれくらい必要で、自己資金だけでは足りなければ、金融機関から借りられるのか。
この2つがそろわなければ実現しません。
特に大変だったのは土地ですね。
土地探しだけで3〜4年くらいかかりました。
これだけの施設をつくろうと思うと、数百坪単位の土地が必要になります。でも、それだけの土地は簡単には出てきません。
近隣を自転車で回って空き地を探して、所有者を調べて、直接訪ねていく。
本当に地道です。
今の建物だけを見るとスタイリッシュに見えるかもしれませんが、実際にやってきたことはかなり泥臭いですよ(笑)。

中核となるのは認定こども園とアフタースクール(学童)ですが、それ以外にもカフェ、フィットネス、レンタルスペースなどがあります。
さらに障がい福祉の就労支援も始めていく予定です。
いろいろな世代、いろいろな状況にある人が、この施設へ足を運ぶことになります。
だから、「こういう施設です」という完成した答えは、まだないと思っています。
誰が来て、どんな使い方をして、どんな人たちがつながるのか。
それによって、これから少しずつ形がつくられていく。
地域のいろいろな人が集まって、その人たちによって育てられていく拠点でありたいと思っています。
そうですね。
先日も地域の障がい福祉事業所の方が、利用者さんがつくったアクセサリーやお菓子などを販売するマルシェのようなイベントで場所を使ってくださいました。
使い方は本当にいろいろあると思います。
だから「ここを使って、こんなことをやりたい」という持ち込み企画も歓迎したい。
自分たちだけでは思いつかないことや、自分たちの人手だけではできないことが、地域の方と一緒ならできるかもしれない。
そうやって可能性が広がっていくのは面白いですよね。

今後5年、10年という時間軸で新しいことをやろうと思ったとき、それを中心になって動かせる人が必要です。
馬力があって、周りを巻き込みながら進められる人。
今も人材はいますが、法人の柱として考えると、まだ人数も十分ではありません。
だから次の3年間は、特に幹部人材の育成に力を入れたいと思っています。
ゼロから新しい事業を立ち上げるにしても、既存の事業を引き継いで立て直すにしても、結局必要になるのは人です。
何をするにも、基盤は人材だと思っています。
豊中福祉会では「家族のような絆を目指して」という理念を掲げています。
まずは、それを中心の軸に置くこと。
そのうえで、実際のサービスとしてアウトプットするときには、成果にもこだわってほしいと思っています。
サービスの質はもちろんですが、事業として行う以上、採算性も大切です。
綺麗事だけでは、質の高いサービスを継続することはできません。
質と事業性、その両方が成り立って初めて、良いサービスを続けられる土壌ができると思っています。

福祉事業は制度によって単価が決められているものも多いので、一般的なビジネスのように価格を自由に変えることは難しいですよね。
そうなると重要になるのは、「選んでもらえるかどうか」です。
例えば20人受け入れられるところに10人しか集まっていなければ、収益は上がりにくい。
だからこそ、定員に近づけるための努力も必要です。
ただ、そのためにはまずサービスの質が高くなければ、利用者さんやご家族から選んでもらえません。
人材が育つ。サービスの質が上がる。選んでくださる方が増える。そして事業が安定する。
全部つながっています。
「質の高いサービスをつくった」で止まるのではなく、その価値をより多くの方に届けるところまで考えてほしいと思っています。
これに挑戦してほしい」という具体的なものはありません。
ただ、チャレンジはしてほしいですね。
福祉業界に限らず、自分で自分の可能性に蓋をしている人って、意外と多いと思うんです。
「きっとできない」と思っていたら、できない前提で物事を考えてしまう。
でも、「何とかやれる方法はないだろうか」「きっとできるはずだ」と考えていれば、人との出会いや、力を貸してくれる人、それまで気づかなかった方法にアンテナが向くようになる。
本当はもっと可能性があるのに、自分で蓋をしてしまうのはもったいない。
もっと自分の可能性を信じて、チャレンジしてほしいと思っています。

そこはやっぱり、法人の理念を現場の職員一人ひとりにどれだけ落とし込めるかだと思います。
組織が大きくなるほど、僕自身が利用者さんと直接関わる機会は少なくなります。
僕から管理職へ、管理職から現場へ、と関わる人も増えていきます。
だからこそ、僕たちが一番大切にしているものを、それぞれの現場までどう浸透させていくか。
これは今後、法人としてすごく重要なテーマだと思っています。
本当にシンプルです。
地域で「ナンバーワン」と言われる法人になっていたい。
それはずっと変わらないですね。
うちは、楽しいですよ(笑)。
地域の方が気軽に来られる場所があったり、利用者さんにも楽しんでいただける仕掛けをサービスの中につくったりしています。
そして、これから働く方にとっても、一般的にイメージされる福祉とは少し違った角度から、いろいろなことに関われる法人だと思います。
僕たちは福祉事業者なので、カフェもフィットネスも、すべて「福祉の一環」だと考えています。
福祉って、本当はすごくフィールドが広いんです。
「福祉だからここまで」と決める必要はない。
従来の福祉の考え方だけにとらわれない場所で働いてみたい人にも、面白い環境だと思います。
豊中福祉会に関わってもらうことで、
「福祉って、こんなことまでできるんだ」
という可能性の広さを感じてもらえたらうれしいですね。

| 設立 | 1981年3月 |
|---|---|
| 所在地 | 〒595-0021 大阪府泉大津市東豊中町2丁目4番26号 |
| 代表 | 理事長 八木 秀富 |
| 事業内容 | 高齢者福祉事業・児童福祉事業・障がい福祉事業 |
| URL | https://toyonaka-fukushikai.com/ |